サラダ音楽祭の楽しみ方

音楽祭のメインコンサート「プルミエ・ガラ」の第II部では、「カルミナ・ブラーナ」という壮大なオーケストラ曲が演奏されます。まさにフェスティバルの「メイン」と言える迫力満点の作品です。いったいどんな作品なのかご紹介しましょう。

(文:飯田有抄/クラシック音楽ファシリテーター)

「カルミナ・ブラーナ」ってどんな意味?

ベネディクトボイエルン修道院
ベネディクトボイエルン修道院

“カルミナ・ブラーナ”——なんとなく語呂のいいこの言葉。演奏時間にしておよそ60分という、[サラダ音楽祭]のメインを飾る作品のタイトルです。この言葉はラテン語で、「カルミナ Carmina」が歌、「ブラーナ Burana」はボイエルンという地名(ドイツ南部のバイエルン地方にあります)を意味しています。つまり、“ボイエルンの歌”ということになりますが、これは1803年にベネディクトボイエルン修道院で見つかった古い詩に付けられたタイトルなのです。

修道院で発見された手書きの詩集には、250あまりもの詩が書かれていました。学生たちや若い僧侶たちが詠ったもので、おそらく11〜13世紀ごろのものと考えられています。ラテン語や、古いフランス語・ドイツ語などで記されたその内容には、クリスマスや復活祭といった宗教的なことだけでなく、恋愛やお酒のこと、賭博などの遊び、そして春の美しさについてなど、人々の日常的な暮らしや、その中で生まれるイキイキとした感情が、あざやかに綴られていました。

その写本は、発見者によってミュンヘンの宮廷図書館(現・バイエルン州立図書館)に納められました。そして発見から40年以上経ったある日、図書館の司書であり言語学者のJ.A.シュメラーという人が、詩をきちんと整理して出版しました。1847年のことです。その際に本のタイトルとして付けたのが、「カルミナ・ブラーナ」という言葉だったのです。

「カルミナ・ブラーナ」写本
「カルミナ・ブラーナ」写本

作曲者カール・オルフの「運命の出会い」

カール・オルフ(1895〜1982)
カール・オルフ(1895〜1982)

さて、そこからさらに100年近く経ったある日、偶然その古い詩集を手にとった人物がいました。ミュンヘンの音楽家カール・オルフ(1895〜1982)その人です。
当時オルフは38歳。その頃までの彼は、作曲家というよりも音楽教育者として活動し、音楽・体操・舞踊のための学校の設立や指導に携わっていました。また、ミュンヘン・バッハ協会の指揮者となり、モンテヴェルディやシュッツなど16〜17世紀の作曲家が作った古い音楽を、アレンジしながら蘇らせて、ステージで演奏していました。しかし詩歌集「カルミナ・ブラーナ」との運命的な出会いが、オルフの名を作曲家として後世に残すことになったのです。

「忘れもしない1934年の聖木曜日、私はその本に出会いました。開くとすぐ最初のページに『運命の女神の輪』の絵があって、その下には『おお、運命の女神よ、月のように、姿が変わり……』と書かれていました。その絵と言葉に、私はすっかり捉えられてしまったのです」

オルフはそのように振り返っています。そして歌と踊りと合唱による舞台作品による新しい音楽作品のアイディアが、ふつふつと湧き上がってきたのでした。

オルフの《カルミナ・ブラーナ》誕生

オルフは夢中になって、「カルミナ・ブラーナ」を作曲しました。踊りやパントマイムとともに上演される舞台作品として構想し、詩歌集にある250あまりの詩の中から「春」「酒場」そして「愛」をテーマとする24の詩を選んで作曲。冒頭および最後には、あの「運命の女神」を題材とした曲を据えて、全部で25曲からなる大作に仕上げました。演奏にはソプラノ、テノール、バリトンの独唱、3群からなる合唱(混声合唱、小合唱、少年合唱)、そして2台のピアノや多種多様な打楽器を含む大編成のオーケストラを要します。
初演は1937年6月8日。フランクフルト歌劇場にて上演されました。折しもナチスが台頭し、第二次世界大戦の暗雲が漂い始めた時代です。作品は「ジャズ風であり、言葉の意味がわからない」とナチス当局の音楽評論家から厳しく批判されてしまったため、再演は1940年のドレスデンでの上演を待たねばなりませんでしたが、この作品を通じて作曲家としてオルフの名がブレイクしていったのです。

《カルミナ・ブラーナ》の音楽の魅力

全25曲、演奏時間約60分の「カルミナ・ブラーナ」は、全体的にキャッチーでチャーミング! 1曲は2、3分と短く、どの曲も徹底した世界観をもっており、独特なノリに引き込まれます。合唱の歌うメロディー、オーケストラが奏でるリズムは何度も同じパターンが繰り返され、ハーモニーもめまぐるしく変わるというよりは、安定感のある協和する響きに重きが置かれています。
オルフはルネサンス時代の古い音楽を研究していましたが、それと同時にシェーンベルクやストラヴィンスキーといった同時代の作曲家たちの刺激的なサウンドにも関心を抱いていました。古さと新しさ、音楽のもつ両者の魅力をオルフなりに一つに結実させたのが、この「カルミナ・ブラーナ」と言えるでしょう。
理屈はさておき、その響きを少しでも耳にすれば、ユニークな音世界に引き込まれること間違いなし。
全体は第1部《春に》、第2部《居酒屋にて》、第3部《求愛》、という3部構成になっており、最初と最後に「おお、運命よ」という同じ曲が置かれています。運命の圧倒的な力を感じさせる大迫力の「おお、運命よ」は、数々の映画やTV番組などで使用されていますので、一度はどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。

第1部《春に》では、明るく喜びに満ちた春を讃え、楽しく朗らかな歌と音楽が8曲続きます。「春の訪れ」は、リズミカルなオーケストラの響きとともに、合唱が待ち焦がれた春、恋の季節の到来を喜び伝えます。

第2部《居酒屋にて》は、怒りや悲しみといった感情、酒や賭博について歌われる、人間味あふれる4曲からなります。「われら、居酒屋にあっては」は、酒を飲む人々について男声合唱がリズミカルに歌う曲です。

第3部《求愛》は、若者と乙女の恋について歌われる清らかなハーモニーや、ゆったりと美しい抑揚に彩られたメロディー、愛らしい舞曲風のリズムなどが特徴的な10曲からなります。ソプラノ独唱による「ゆれ動く、わが心」は、全曲中もっとも穏やかで天上的な響きに満ちた美しい曲です。

まったく雰囲気の異なる25曲が集まって、一つの堂々たる世界観に出会う「カルミナ・ブラーナ」。
サラダ音楽祭では、前代未聞のダンス・パフォーマンスとのコラボレーションが巻き起こります。

次回の「サラダ音楽祭の楽しみ方」では、この作品の舞踊的要素を自由に羽ばたかせ、オーケストラ&合唱との真新しいステージを展開してくれる近藤良平さんにお話を伺います。どうぞお楽しみに。

(vol.1 おわり)

オルフ:世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》

《運命、世界の王妃よ》

  • 1. おお、運命よ試聴する
  • 2. 運命は傷つける

第1部 《春に》

  • 3. 美しき春
  • 4. 太陽はすべてをいたわる
  • 5. 春の訪れ試聴する
  • 《草の上で》
  • 6. 踊り
  • 7. 気高き森
  • 8. 店の人よ、私に紅を下さい
  • 9. 輪舞
  • 10. 世界がわがものとなるとも

第2部《居酒屋にて》

  • 11. 怒りに、心収まらず
  • 12. 焙られた白鳥の歌
  • 13. 予は大僧正様
  • 14. われら、居酒屋にあっては試聴する

第3部《求愛》

  • 15. 愛の神はいずこへも飛び来り
  • 16. 昼、そしてあらゆるものが
  • 17. 赤い胴着の乙女が立っていた
  • 18. 私の心はため息にみつ
  • 19. 若者と乙女がいたら
  • 20. おいで、おいで
  • 21. ゆれ動く、わが心試聴する
  • 22. 楽しい季節
  • 23. 私のいとしい人
  • 《ブランチフロールとヘレナ》
  • 24. たたえよ美しきものよ
  • 《運命、世界の王妃よ》
  • 25. おお、運命よ

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