真のハイライトは幕が下りた後にやってくる

 もしもなんでも願い事を叶えてくれると言われたら、なにを望むだろうか。
 「そうだなあ、サッカーくじで6億円当たるとか? そうしたら会社に辞表を出して、毎日楽しく遊んで暮らそうか。都心の豪邸はいくらくらいあれば買えるのかなあ……」
 違う。そうじゃない。子どもの頃を振り返ってほしい。だれしも子ども時代特有の夢想的な願望を持っていた時期があったのではないだろうか。クラスでいちばん足が速くなりたいとか、お城に住みたいとか。ああ、なにか不思議な力で、願い事がかなえばいいのに。机の引き出しからネコ型ロボットが出てきて、ひみつ道具を出してもらえないものか。

子どものためのオペラ「ゴールド!」 子どものためのオペラ「ゴールド!」

 子どものためのオペラ「ゴールド!」は、そんなのび太みたいな空想に浸ったことのある子どもと、かつて子どもだった大人のための物語だ。オペラとは銘打たれているものの、かしこまったものではなく、親子向けの音楽劇だと思えばオーケー。歌手1名、打楽器奏者1名の合計2名で上演されるコンパクトな作品で、このふたりがさまざまな役を演じ分ける。2012年にオランダで初演され、ヨーロッパ各地でも上演されており、今回が日本初演となる。もちろん、日本語で上演されるのでご安心を。対象年齢は4歳以上。

 「ゴールド!」の主人公は小さな男の子ヤーコプ。パパとママとしっしょに仲良く暮らしている。でも、3人は貧しい。靴もなければ家もなく、パパが掘った穴の中で寝ている。ヤーコプは毎日、海で魚を釣っている。あるとき、釣った魚が言葉をしゃべった。「お願いです。僕を海に返して。もし返してくれたら、なんでも願いをかなえてあげる」。ヤーコプは不思議な魚に靴が欲しいと願った。すると、ヤーコプの足にピカピカの真新しい靴があらわれた。ヤーコプがこの話をパパとママにすると、両親は考えた。自分たちにも靴がほしい。いや、靴だけじゃない、毛布もほしいな。ベッドもあったらいいんじゃないか……

演出・台本日本語翻訳/菅尾 友 演出・台本日本語翻訳/菅尾 友

 この物語はグリム童話の「漁師とおかみさん」が題材となっている。似たような物語として、ロシア民話「金のさかな」を思い出す方もいるかもしれない。そんな古くからある物語を、男の子を主人公とする子どもの物語に置き換えているのが、今回の「ゴールド!」。テーマは欲と幸せ。4歳でも10歳でも大人でも、年齢に応じた受け取り方が可能だろう。

 作曲はレオナルド・エヴァース。子供向け作品といっても、童謡のようなメロディが続くものではなく、現代人の感性に応じた新鮮味のある音楽になっている。マリンバを中心とする打楽器は、子どもたちの耳を引き付けるリズミカルな要素を持つとともに、幻想的な海のイメージをかきたてる。出演はヨーロッパの舞台でも活躍するソプラノの柳原由香と、ジャンルを超越した意欲的な活動で注目を集める打楽器奏者の池上英樹。子どもが飽きないように随所に工夫が凝らされており、観客が体を動かして舞台に参加する場面も用意される。演出の菅尾友はドイツでも脚光を浴びる気鋭だ。

 子ども向け舞台の真のハイライトは幕が下りた後にやってくる。はたしてお子さんはどんな反応を見せてくれるだろうか。

(左)ソプラノ/柳原由香 (右)打楽器/池上英樹©Yuji Hori (左)ソプラノ/柳原由香 (右)打楽器/池上英樹©Yuji Hori

文/飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)